キイロショウジョウバエという小さなハエの一種は、研究者に人気の研究対象です。すべての始まりはトーマス・ハント・モーガンという生物学者の100年以上前の研究でした。彼は遺伝の仕組みを研究するのに適した生物を探していました。そんな彼が以下のような理由から選んだのがショウジョウバエでした。
飼育が簡単で安価。(しかも台所に果物を放置するだけで、だれでも野生のショウジョウバエを捕まえられるでしょう。)
生活環が短い。卵から成虫になるまでたった10日しかかかりません。
染色体が4対しかない(ヒトは23対)ので研究しやすい。
モーガンと学生たちはハエを使って、いくつかのとてもおもしろい発見をしました。例えば、今では常識になっていますが、遺伝子が染色体上に乗っていることを最初に証明したのは彼らです。モーガンは後にノーベル賞を受賞しました。モーガンを始まりとして、これまでに6回のノーベル賞がショウジョウバエの研究に贈られています。さらに詳しく解説されている外部リンクはこちら(英語のみ)。ハエの遺伝学を試せるシミュレーターはこちら(英語ページ外部リンク)。
本研究室にとっても、ハエはすばらしい研究材料です。成虫のハエの神経細胞は約10万個、幼虫は約1万個しかありません。一方のヒトは約700億個と言われています。この比較的少ない神経細胞の利点を生かして、これまでにショウジョウバエ研究者らは、幼虫と成虫の脳のすべての神経細胞の形とそれぞれの接続(シナプスと言います)を電子顕微鏡画像を元に再構築させました。いくらハエの脳が小さいと言っても、この作業には強力なコンピューターアルゴリズムと、多くの研究者の時間が注ぎ込まれた一大プロジェクトでした。このおかげで今は、すべての神経細胞ひとつひとつが、どの神経細胞に情報を伝達しているのか追跡できるのです。このプロジェクトについてもっと知りたい方はこちら(英語ページ外部リンク)。
ハエの脳は人の脳よりもずっと小さいにもかかわらず、たくさんの共通点があります。例えば、神経細胞の伝達の仕方は地球上のすべての動物で共通です。また感覚(嗅覚、味覚、視覚など)の仕組みも様々な動物で似通っています。つまり、ハエの脳の仕組みが解明できれば、私たち自身の脳の仕組みも一部解明することになるのです。
そして最後に、ハエが研究対象として優れている重要な理由として挙げられるのは、遺伝子を簡単に操作できる特別な方法が使える点です。次のページで詳しく解説します。